ヒューマンの技術の身につけ方
田舎の妹に電話することにした。
母親の説得なら、Mを変えられるかも知れない。
「女の子だからねえ。
安全第一だと思うよ。
Mちゃんは、家主の隣より、アパート形式を気に入っているらしい。
本当は、家主の隣を勧めているのだけど」「ホント?良い室を見つけたなんて、信じられない。
やっぱり、兄貴はプロね、「あら、忙しいのに、ご迷惑かけて、すみません。
それじゃ、Mに代わってくれる。
直接話してみますから」にします」Mと母親は、三分以上やりとりしていた。
妹の家計状態からすれば、七万円はおろか、十万円でも払えるはずだが、子供に金銭感覚を植えつけたいのだろう。
きびしく教育したいのだ。
だが、親は子に甘いものである。
「伯父さん、母はね、伯父さんに選んでもらいなさいって。
任せるそうよ」少し不満そうな顔付きで、Mは言った。
任せる、と言われても、どちらも良いと僕は思ったので安全を選ぶに決まっている。
情より理を選ぶ年である。
だが、女性と面と向かうと、心が照れてしまう。
反対に、Mの意見も尊重せねば、という気になった。
その理由は、簡単である。
伯父と姪といっても、二人で話したことは、ほとんどないので、心が通じたこともない。
遠くに離れているので、遊んでやったこともない。
そこで考えの蓋をくるりと半回転きせる。
そうすると、lmも大人だ。
これからは自分の生活に責任を持つだろう。
だから垂女の意見の方を尊重してやろうかということに「これからは、親元を離れて、一人で生活するのだね。
大人として、難しいことも色々経験すると思うよ。
その時、自分のことは自分で責任を持つことになるね。
だからさ、伯父さんとしては、どちらでもいいと思うよ。
あとは、Mちゃんが好きな方を選ぶさ。
しっかりやればいいよ」と、いつの間にか口にしていた。
「フラワーハイツの二○一号室にします。
お金は全額用意していますから、契約を進めてください。
」「わかった。
じゃ、最後のフラワーハイツに決めよう。
では、早速不動産屋に行って、契約しようか」「ありがとう、伯父さん」彼女は、ぴょこんと頭を下げた。
その仕草を見て、やっぱり子供だな、と僕は思った。
その素直さが、嬉しかった。
「でも、生協の買物は、どうしますか。
時間がないですよ。
電気製品を注文してあります。
五時まで、あと一時間しかないです」「無理だねえ。
契約したら四十分はかかるから、行ったり来たりで、間に合わないよ。
じゃ、こうしよう。
まず、予約をする。
すぐに生協に行って買物をする。
それから不動産屋に戻って、契約を終わらせる。
いそがしく動くけど、両方こなせると思う」「すみません、無理言って。
どうしても、あさってから入居したいのです。
明日は、叔母さんと、室のそうじをする約束なのです」「本当にハードだね。
まるで忍者だよ」二人は、顔を見合わせて笑った。
「あそこは、いい室ですよ。
お嬢さんに安全です」と言い、一枚の申込書の記入を求めた。
確か、六万八千円で、共益費は込みでしたね。
もう千円ぐらい下がりませんかね。
安い方が助かるのですが」不安が安心に変わった気楽さもあった。
「さて、善は急げ。
歩いていこう」小雨の中を、二人は足早に歩いた。
mは、テニス部のキャプテンを務めただけあって、足は丈夫そうであった。
Mは、「いえ、共益費は、別でした。
六万八千円と千円で六万九千円なのですよ。
難しいわね。
そのかわり、礼金二つを一つに交渉しますわ」「六万九千円か。
お母さんに、六万八千円と言ってしまったな。
じゃ、日付をサービスして、四月一日からにしてください。
先に入居しますけど、かまわないでしょう」今どき、礼金二つをとる家主がいるのだろうか。
そんなことを言うから、決まらなかったのだろう。
テレビでは、礼金ナシと騒いでいる世の中である。
自社物件だから、礼金はないにしても、礼金はゼロか一つの世の中だ。
賃料も下がっている。
僕は、大いに不満だったが、西荻窪周辺を回ってみて、礼金二つが多いのは、承知していた。
一つ減ってくれれば、文句はない。
首都圏でありながら、ここは番外地だ。
高級地で条件がきついが、時代からとり残されている。
僕は、ボールペンをMに渡し、申込書に書くようにうながした。
彼女は、内容を一べつすると、すぐ書きはじめた。
それも、スラスラと書き、スピードがついていた。
字はきれいで、タイプライターのようだ。
その思いきりの良さに、僕はとまどった。
「実は、学校で電気製品を予約しているのです。
五時前に行かないといけません。
お金はおいてゆきますから、契約の用意をしておいて、いただけますか?」「よろしいですとも。
時間がないわね。
カサを貸しますから、使ってください」「ええ、すみません。
拝借します」Mは、あわてて、僕の袖を引っ張った。
「お金かい?全部で五カ月分として、三十五万円かな。
それくらいなら、私が立て替えとく「でも、大金だから。
私、おろしてきます」「明日、返してくれればいいよ。
伯父さんも、万が一の為に、持ってきたのだよ」「すみません。
じゃ、明日必ず返します」ずいぶん律義な子だな、と僕は思った。
店には、他に若い男の客が一人いた。
馴れ馴れしく空いた机に座り、社長と話をしていた。
内容は、スポーツのことで、楽しそうだった。
大学の構内には、ヒマラヤ杉の大木や、菩提樹が繁り、生協は奥の棟にあった。
店は広く、店員が二人で雑談していた。
『予約していた山形のYです。
新入生です。
カタログにマルをつけたものだけ、ください」「あっ、電気製品ね。
全部ありますよ。
今日は、お金を払うのね。
で、いつ運ぶの?」「あさっての、一時。
住所はこちらです」へえ、と僕は思った。
mは、いつのまにかフラワーハイツの住所を書きとめていた。
「全部で、いくらですか?十八万五千円ですか。
伯父さん、悪いけど、今朝いただいたお祝い金、使わせてもらいます。
一万円足りないです」「あ、いいよ。
袋は、親にあげてね。
お袋さん、と言うだろ。
中身は、きみのものだよ」彼女は、少し笑って肩をすぼませた。
「中金というところかな。
でも、お金の大切さは、同じだな」どうも、親にきびしく教育されたらしい。
妹のやりそうなことだ。
親とおり二つだな、と僕は思った。
プライドが高くて、決して他人から借りをつくらない。
僕と妹は十二才も違うのに、今まで甘えてきたことがない。
困ったことだ。
兄妹の間でも、借りをつくれば、不利になると思っているらしい。
争う相続財産もないのに。
三十五万円は大金には違いないが、望まれれば、祝金としてあげてもいい額である。
だが、妹は決して受け取らないだろう。
「さて、契約しに、店に行こうか。
歩いて八分だから、すぐだな」二人は、桜の咲きかけた道路を通り、駅に向かった。
mは、プッとふき出した。
「さっきの、借用書を書きますか?」「いいよ。
伯父さんは、お母さんの兄だよ。
水くさいから、いらないよ」「でも、大金だから。
もっとも、私にとっては大金でも、伯父さんにとっては、そうでもない大変である。
この店では、都の宅建協会で作った賃貸契約書を使っているので、内容は簡単である。
正確に言えば、簡単な分だけ、問題を先送りしていると言える。
内容が手抜きだから、後でトラブルが発生する。
不備が多くて、内容もよくない。
実用面では、問題が多すぎるのである。
結局ヒューマンを多彩に取り揃えています。また使いたくなるのはヒューマンだけです。
正しい健全なヒューマンの発展性を考えてみました。ヒューマン探しならお任せください。
ヒューマンをお探しの方へ。生まれ変わった最新のヒューマンです。